守口市の大阪ギタースクールで今年(2018年4月)ドイツ留学から帰国したばかりのギタリスト井谷光明さんにインタビュー。井谷さんの誠実さや探求心がうかがえるエピソードを聞くことができました。(聞き手:米阪隆広)

クラシックギター 井谷光明─────井谷さんがギターを始めたきっかけはどういうものだったでしょうか?

実家がギター教室だったので、それこそ母のおなかの中にいるときからギターの音に親しんでいたんですが、最初に親に言われて習い始めたのはピアノだったんです。
ギターは6歳の時に親戚の結婚式で見様見真似でベートーベンの「喜びの歌」を演奏したことがあって、それからちょくちょく自分で弾くようになりました。ピアノを練習しながらも母の生徒さんたちを見て『あっちの方が楽しそうだな!』と言う感じに…(笑)
ピアノは中学1年まで続けましたが、結局だんだんギターと入れ代わっていきました。

─────ギタリストを目指そうとしたきっかけは何でしょう?

高校生の時、進路を決める段階では普通に大学受験をするつもりでした。ところがある時ふと『なぜ大学に行くんだろう?』という思いが頭をよぎったとき、ただ単に「まわりのみんなが大学に行くから」という理由しかないことに気づいて、『それは何か違うな』と思ったんです。そこから自分が他にできることは何だろうと考え始めて、小さいころから続けていた音楽の道に思い当たりました。
そこで大学進学はすっぱり止めて猪突猛進でがんばろうと、高校卒業と同時に中之島公会堂でいきなり「デビューリサイタル」を行いました。とはいえ、それまでギターはアカデミックな勉強をしたことはないし、世間知らずでギター業界のこともわからないしで、そこから活動を広げていくことはできませんでした。
その後、何度かコンクールにも挑戦してみましたがいい賞は取れず、20歳の時ついにギターをやめようと思い始めてしまいました。

─────最初から順風満帆ではなかったんですね。それではそこから再起をかけて頑張るようになったきっかけは何でしたか?

ちょうどそのころデイヴィッド・ラッセル(イギリス出身のギターの巨匠)の来日リサイタルがあって聴きに行ったんですが、それがあまりに衝撃的で『こんな風にギターが弾きたい』とギターへの情熱が再燃しました。
さらにその後、ギタリスト猪居謙くんが演奏するのを聴く機会があって『同世代でもこんなに弾ける人がいるんだ!』という別の衝撃もあって…
これがきっかけとなって、初めてきちんとギターを習ってみようと決意して、猪居信之先生の教室に通うようになりました。
それまでは『音楽なんて人に習うもんじゃない』みたいな偏った考えがあったんですが(笑)、この時から上達するためなら今までの自分のスタイルを完全に変えてもいいと思って、完全に白紙に戻った気持ちでギターに取り組み始めました。

クラシックギター 井谷光明─────ドイツに留学されたきっかけは何だったでしょう?

最初は留学する意思はなかったんですが、猪居謙くんに誘われてドイツのコブレンツ・ギターフェスティバルに行った時に、たくさんのギタリストのレッスンを体験して素晴らしい刺激を受け、留学への興味が一気にわいてきました。
それで次の年から一年かけて留学準備に取りかかり23歳の時にドイツに渡りました。
最初はコブレンツ国際ギターアカデミーで2年間ギターとともに語学と音楽理論を学び、その後はケルン音楽大学でフーバート・ケッペル先生の下で4年間学びました。
修士課程もそのままケルンで…と最初は思っていたんですが、ここでも猪居謙くんからのご縁があって彼の師匠だったトーマス・ミュラー・ぺリング先生のいるフランツ・リスト・ワイマール音楽大学で2年半学べることになりました。
大都会であるケルンに対して、田舎で落ち着いたワイマールの街が気に入りましたし、ワイマール音大の教授陣の雰囲気や練習環境にも惹かれたんです。
修士課程になると音楽家としての仕事もできるようになるので、子供たちにギターを教える仕事も始めました。
昼間働いて夜に大学の練習室でギターを弾くという生活が2年半ほど続き、留学中で一番大変な時期でしたが、一番楽しく充実した日々でもありました。

─────デビューCD『レヴェリー』もそのころに制作されたんですね。

ぺリング先生の知人のスタジオでぺリング先生にアドバイスをいただきながら制作しました。ありがたいことに大勢の皆さんに買っていただけて、もう手元にほとんど残っていません。現在は第2弾CDを制作するために情報収集している最中です。

─────留学で得た大きなものは何でしょう?

ドイツギター界の2大巨頭といえるフーバート・ケッペル、トーマス・ミュラー・ぺリング両氏のレッスンを受けられたことは大きいですね。両方の先生に師事している人はほとんどいないので、とてもめぐり合わせがよかったと思います。
このお二人からは共通して「音楽と運指を結び付ける」という考え方をしっかり学べました。自分のイメージする音楽の方向性に最も適した運指を熟考することはギターの音楽表現でとても重要なことです。またその曲の時代や様式に適した、様々な音質の変化やダイナミクスによって自分の個性を出していくことも両先生から教えていただき、今の演奏スタイルにつながっています。

─────今年の4月に日本に帰国されましたが、現在はどのような音楽活動をされていますか?

11月11日に帰国記念リサイタルを催しましたが、それ以外にもご依頼いただいてあちこちでギターソロで演奏しています。
他に挑戦したことでは、ソプラノ歌手との共演で自分の編曲による歌とギターのコンサートを行いました。編曲の経験はそれまでほとんどなかったんですが、非常に興味深く、自分にとって今後得意な分野になるかも知れません。このことには留学中に学んだことも生かされているかもしれませんね。自編の楽譜にも綿密に運指を書き込んであります。
その他にも最近サックス奏者と古楽を演奏するというめずらしい機会がありました。
初めての経験が多くて大変な面もありますが、こういったお声掛けをいただいたらできる限りチャレンジしようと思っています。
レッスンの方は守口(大阪ギタースクール)で教えるほか、茨木六弦堂でのレッスンも開講しました。

クラシックギター 井谷光明─────井谷さんにとってギターという楽器の難しさとはどういったところでしょう?

ギターは音が繊細で比較的小さいという特性があるので、演奏する場所や共演者に合わせてマイクなどで増幅する必要がありますが、その音量や音質の微調整がとても難しいですね。
また、ギターの一般的なイメージはやはりエレキギターやアコースティック、フラメンコなので、コアなクラシックギターファン以外の皆さんには、実際に聞いていただく前に「クラシックギターとはどういう楽器か」ということをお伝えするのに苦労します。

技術的な面でもギターは難しい部分が多い楽器で、なめらかに弾くことや正確なピッチで弾くことは常に困難が付きまといます。
自分にとってベストな状態の爪を作ることも難しく、私も試行錯誤の連続でした。
いろいろ試した結果、私にとって45度の角度で爪を削るのがベストなので、爪やすりにサイコロを接着して角度を調節しやすくしています。(写真)もちろんこんなことをしているのは私くらいですが(笑)
人によって爪の形や大きさが違うので、その人に合った爪の削り方が違うと思いますが、内外のギタリストの爪を見せてもらって長年研究してきた結果なのか、今では手と爪を見ただけでその人にちょうどいい爪の削り方が分かるようになってきました!

また私は手がかなり小さいので難しい曲を弾くと疲労がたまりやすく、コンサートや練習の際にはストレッチを入念にやっておかないとすぐに調子を崩してしまいます。
留学中、何か月か手を痛めてしまったことがあるんですが、その時は肩甲骨ストレッチや筋膜ストレッチをすることで症状が改善しました。
それからは体が凝った状態で練習しないよう、身体の状態には常に気をつかうようにしています。

クラシックギター 井谷光明─────これから力を入れていきたいことはどういったことでしょう?

レッスン、演奏活動など様々なことをより拡大して行っていきたいですね。
母(ギタリスト・井谷正美)の開催してきたBUNROKUコンサート(守口市・文禄堤薩摩英国館でのコンサートシリーズ)も私がさらに継続させていきたいですし、自分の演奏活動としてはコンチェルトだけのコンサートや姉(クラリネット奏者・井谷一美)とのコンサートもいずれ開催したいと思っています。その他にも、これまで出会った人、ご縁のあった人と一緒に何かを企画していけたらいいですね。
また先ほどお話しした歌とギターのコンサートをきっかけに編曲にも興味がわいてきたので、今後も力を入れて勉強して続けていきたいと思います。ギターの繊細で多彩な表現は、歌と合わせることでとても魅力的な世界が広がります。作品がたまってきたらいずれは出版もしてみたいです!

─────関西ギター界で自分のできることは何だと思いますか?

まだ帰国して日が浅いので自分にできることは少ないと思いますが、自分のヨーロッパでの経験を生かしてこれから留学したいという後輩たちを何かの形でサポートしていきたいと思います。
またドイツでは子供たちのレッスンをたくさんしてきたんですが、その経験を生かして関西におけるギターの早期教育という分野で自分にできることがあるのではと思っています。これからの子供の音楽教育のスタンダードの一つとしてピアノだけではなく、ギターという選択肢を広げていけたらいいですね。

─────最後に何かメッセージをお願いします。

帰国したばかりなので、できるだけ大勢の皆さんに演奏を聞いていただいて、自分というギタリストを知っていただきたいと思っています。よろしくお願いいたします!

─────ありがとうございました。

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