ギタリスト猪居亜美《関西クラシックギターの挑戦者たち②》


たぐいまれな演奏技術と現代的な音楽センスを感じさせる演奏で人気のクラシックギタリスト・猪居亜美さんにインタビューしました。演奏やギターレッスンだけにとどまらない、新しいギタリストのあり方を模索したいという猪居亜美さんの将来の展望をお聞きしました。なお、今回はインタビュー会場として猪居亜美さんもレッスンを行っている大阪南町のクラシックギター・マンドリンの専門店「フレット楽器ヤマサキ」さんにご協力いただきました。(聞き手:米阪隆広)

ギタリスト 猪居亜美─────ギターとの出会いはどういったものだったでしょうか?

父(猪居信之)も兄(猪居謙)もギタリストという環境で育ったので、4歳の時には自分から自然にギターを触っていたようです。正確にいつから、どのような感じでギターを始めたかは自分ではほとんど覚えていません。
小さいころは練習が好きではなかったんですが、舞台に立って人前で演奏をするのは大好きでした。当時の演奏している映像を見てみると本当に楽しそうです(笑)

─────物心ついたらギターを弾いていた感じなんですね。それではプロギタリストになろうと本格的に意識し始めたのはいつだったんでしょうか?

プロを目指しはじめたのは音大(大阪音楽大学)に入ってからですね。
実は高校のころまでは将来も漠然としていて、いろいろとアルバイトをしたり、軽音部に入ってエレキギターを弾いたりして模索していた時期がありました。軽音部のバンドでライブやコンテストに出場したりしていたんですが、なかなかファンがつかず結果がだせないもどかしさがありました。
その反面、音大に入って勉強していく中で、私にとってクラシックギターは努力した分の結果がちゃんと返ってくるのがわかってきて、20歳になる前にはプロギタリストになるという目標がはっきりと固まってきました。

─────音大ではいい経験ができたましたか?

音大に入るまではギター教師である父に教わっていたんですが、親子だけにぶつかってしまうこともあり、父の言うことを素直に受け止められずに反発してしまうことがたびたびありました。
音大に入って初めて親元を離れて勉強し、藤井敬吾先生や福田進一先生に指導を受ける中で、新しい発見がたくさんあってギターが今まで以上に楽しくなっていきました。自分から進んでギターの勉強をするようになってからは、かえって昔父の言っていたことが理解できるようになったのはうれしかったですね。

ギタリスト 猪居亜美 Black Star─────2015年にCD「Black star」をリリースして、いよいよ本格的にプロギタリストとしてデビューしたわけですが、どういうきっかけだったのでしょうか?

プロになろうと決意したころ、自分の演奏動画をYouTubeにどんどんアップしていたんですが、たまたまそれを新しいギタリストを探していたレコード会社(フォンテック)のプロデューサーが見て、Twitterから私にコンタクトを取ってくださったんです。そこからCDデビューの話が動き始めました。

─────YouTube、Twitterがきっかけとはとても今時な感じですね!
では同時期にCDデビューしたお兄さん(猪居謙)とはまったく別でCDの話が進んでいたんですか?

はい。兄は福田進一先生のプロデュースでCDデビューしたので、同時期のデビューになったのはまったくの偶然です。
CDデビューを機に現代ギター誌の表紙も飾らせていただきましたし、今まで自分を知らなかった方にも名前を知ってもらえて、ギター界での知名度という点では大きく前進できる契機になりました。

大阪南森町 フレット楽器ヤマサキ─────ギタリストとして活動していく難しさを感じるのはどういう時でしょう?

デビューしてからの方が難しさを感じることが多くなりましたね。
最初の1年目くらいは順調なように感じたんですが、2年目3年目になってくると同じことの繰り返しではダメなんだなと気づいてきました。お客様を飽きさせないために次々と新しいことに挑戦していく必要がありますし、今のお客様を大切にしつつ新しい方にも聴いていただくために活動範囲を広げていくにはどうすればいいか、しっかりと考えていかないといけません。
また演奏技術の面では、海外の国際コンクールに挑戦する中で、海外の猛者たちが集うコンクールで勝ち残る難しさも痛感しています。単に上手に弾けばいいわけではなく、コンクールで勝ち残るためのプログラム作りやコンディションの整え方、さまざまな駆け引きなど、勉強しないといけないことは数多くあり、その難しさに今まさに直面しています。

─────最近はじめたことや力を入れていることは何でしょう?

最近はブログに力を入れています。他のクリエイターの方は自己発信のツールとしてブログを活用するのは当たり前になっていますが、ギタリストで活用している人は少ないですね。自分のことを知らない方でもブログがきっかけでつながりができることもありますし、やはりどんどん活用していくべき価値があるとと思います。
2,3カ月前からブログの延長としてWebレッスン『ギター学』を書き始めていて、1記事500~1000円ほどで販売も開始しています。事情があってレッスンに通えない方や教室に通いながらさらに別の勉強もしたいという方など、はじめてみるとかなり需要がありそうだと実感しています。
将来的には様々なプロギタリストのレッスン記事が閲覧できる総合サイトを育てていきたいと考えていて、8月から『The study of guitar』というページを立ち上げています。今は様々なギタリストに声をかけている段階ですが、たくさんの皆さんに見ていただいて、どんどん活発にしていきたいですね。

─────これから活動していく上での目標はあるでしょうか?

海外のギタリストを招いて演奏会を企画する仕事にとても興味があります。
近年はクラシックギターの演奏技術は飛躍的に向上し、世界中に素晴らしいギタリストがたくさんいるんですが、残念ながらここ何年かは関西で演奏会が企画される機会が減っています。
関東やほかの地方で海外ギタリストの演奏会が催されても、関西は素通りされてしまうことが多いのです。現時点では関西での集客・資金集めが難しく、赤字が出やすいためコンサートを主催できる方が少ないのが原因でしょう。
自分の演奏活動と並行して、よいコンサートを企画するイベンターとしての活動にも今後携わっていけたらと思います。今はそのための基盤作りの時期ですね。

─────自身が演奏家でありながら他の演奏家のコンサート企画も行いたいという若手ギタリストはとても珍しいですね。猪居さんが今一番呼びたいギタリストはだれでしょうか?

まずは私自身が大好きなエカチャイ・ヤラクールですね。それにすでに過去に来日されていますがマルシン・ディラもお呼びしたい素晴らしいギタリストです。他にも日本では全く名前を知られていなくても、世界のコンクールで何度も優勝しているような素晴らしい若いギタリストがたくさんいます。
よいコンサートを企画するためにはクラシックギター界が活性化してお金が健全に循環する流れを作っていかないといけないでしょう。それには従来のコンサートやレッスンだけではなく、インターネットを介した様々なサービスの提供(Webレッスンや自作の楽譜、CDの販売など)がカギになるかもしれません。お金を演奏家・アーティストに十分に還元できるようになったら、関西でのコンサートも活発に行えるようになると思います。

─────音楽家・芸術家がお金の話をすることは好ましくないという風潮が大なり小なりあるように感じますが、どう思いますか?

確かに「音楽家がお金の話をするのはいかがなものか」という批判もなきにしもあらずなんですが、今は若い方を中心に音楽・芸術とお金の関係を考えるのは当然という意見が多くなっていると思います。いくら音楽家として活動を続けたくても、資金が無くなれば廃業せざるを得ません。
また年齢に関係なく、その音楽家を応援したいからコンサートやCDなどでお金を使ってくださる方も多いんです。そういう考えの方が増えることで業界全体がもっと活気が出てくきていいコンサートも増えていく思います。

─────最後に今後の関西ギター界の展望と、猪居亜美さんの考える自分の役割はどういったものでしょうか?

特に若い世代のギタリストの間に連帯感ができていっているのがとてもいいことだと思います。
もちろんお互いライバルとして切磋琢磨しようという意識もあるんですが、敵対する者同士ではなく「クラシックギタリスト」という一つのチームとして業界を盛り上げようと考え方になってきている気がします。こういう動きはきっとクラシックギター業界をもっと活発なものにしていくでしょう。
そんな中で私自身もまずは演奏家としてどんどん実績を作っていきたいですが、同時に若い世代を育てるプロデューサー的な仕事も将来は挑戦したいと思っています。

─────ありがとうございました。

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